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ジャンニ・ヴェルサーチのブティック

ミラノの守護神を祭るサンタンブロージョ教会。その通りをはさんだ向かい側に、ジャンニ・ヴェルサーチのブティックがあった。壮麗な石造りの屋敷が立ち並ぶ街並みに一際目立つ色鮮やかなウィンドウに惹かれて、散歩の途中に時々立ち寄るようになった。広々とした店内にゆったりと飾られている服は、ローマの青空のようなブルー、珊瑚のピンク、鮮やかなオレンジ、クラシックな葡萄酒色、そして黄色など、いかにもヴェルサーチらしい色で溢れている。ある日、店に入っていくと顔見知りになった店員の女の子が「ちょっと待ってて」と言う。いまからお客様にお届けに行かなくてはならないの。そう言いながら彼女がカウンターの上に並べ始めた服に、私の目は惹きつけられた。それはいかにも上質な、滑らかな布でできた白と黒の服ばかりだった。細いストレートの黒い端子のパンツに、フワリと花開いたような大きな襟の純白の絹のブラウス。凝ったふくれ織りのタイトスカートも白。透けるジョーゼットの黒いシャツ、そしてソワレ用だろうか、黒いシルクタフタの中央に、バレエ衣装のチュチュのようにチュールレースのひだがたたみこまれたミニスカート。いったいこの服を買ったのは、どんな人なのだろう。モンテナポレオーネ通りの本店ではなく、古い住宅地のこのヴェルサーチで、あえてこのブランドらしいカラフルな服ではなく一直線に白と黒の服だけを選びとった人。このあたりの屋敷に住む貴族のマダムだろうか、それとも一人暮らしの映画女優?私の頭の中に、頬骨の高い痩せた四十代半ばの女の姿が思い浮かんだ。